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2014年10月1日水曜日

芭蕉の句(象潟にて)

秋田県象潟において芭蕉は、次の句を詠んでいる。
「象潟(きさかた)や雨に西施(せいし)がねぶの花」

 「秋田県象潟に来て、雨に煙る潟湖の風景を眺めると、雨に葉をとじた合歓の花が咲いていて、あの西施が悩ましげに目を細めているような風情。蘇東披が西施にくらべた西湖の面影が偲ばれる」と言う意味である。
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 「西施」は王昭君・貂蝉・楊貴妃と並び、中国四大美女の一人である。その「西施」という名前を句の中に歌い「ねぶ(ねむ)の花」という語が暗に「西施」が「眠る」の二重の意味に掛けた複雑な比喩を表現している。
 また、ねぶの花に中国周時代の傾城の美女「西施」への想いを重ね、蘇東坡(蘇拭)の詩「飲湖上初晴後雨(湖上に飲む、初め晴れ後雨ふる)」をふまえている。その中に「西湖をもって西子に比せんと欲すれば 淡粧濃沫総て相宜し」と歌われている。
 奥の細道の象潟に「~俤(おもかげ)松島にかよひて、又異なり。松島は笑ふが如く、象潟はうらむがごとし。~」と記述している。これは、松島は美人の笑顔のような華やかさだが、象潟は美人が物思いに耽っているように寂しさと悲しさを重ね合わせた感じである、という意味である。芭蕉は、松島を、「松島は扶桑第一の好風」と日本一のよい景色と、中国の洞庭、西湖、浙江の潮と同じくらい絶賛している。しかし、その松島では句を詠んでいない。
 芭蕉は、“松島の月先心にかかりて”と、松島が旅の頂点であることを予想して旅立ったのになぜ最北の地の象潟に行ったのか、そして句を詠んでいない松島と比較しとのは、何を意図していたのか。
 あらためて、句を読み返してみると松島と比較することで相乗効果をねらい、二つの場所の景観の素晴らしさを強調しているのではないか。そして雨に濡れて咲いているねぶの花に西施の妖艶な女性のイメージを重ねることにより一層、雨に煙る象潟の風景全体を象徴しており、美しい景色に強く感動したことが感じられ、それをこの句で表現していると思われる。
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■出典 田中善信著 『芭蕉』「かるみ」の境地へ 中央新書2010
■参考文献 「二重像の詩学 : 比喩と対句と掛詞」 著者 川本 皓嗣(url;http://id.nii.ac.jp/1160/00000111/ )
「奥の細道・芭蕉を解く その心匠と空間の謎」 安原盛彦 鹿島出版会2006